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Selfishly

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p6 The fun is the back 3


スローライフt Pa 6

  ~The fun is the back 3~




式典当日。
さすがに、司令部は朝から慌しい空気が満ちていた。
エドワードとデュラーの二人も、昨日より更に早い時刻から出勤して
前日の不在の間に上がっている報告をチェックしては、進行に支障を
来たさないかを、真剣に確認し合っていた。

「よっし。 大体の所はOKだな。
 後は、最初の計画に加わった大総統のスピーチの建物が
 完成しているかを確認して終わりだな」

満足げに進行表を見直しているデュラーの言葉に、
エドワードが聞き返す。

「えっ? スピーチって最初から決まってたんじゃないんだ?」

報告書に『了解』のサインを必死に書き込んでいる手を止めずに、
エドワードは頭だけ上げて、デュラーに視線を向ける。

「ああ、スピーチは決まっていたんだけど、最初は司令部の講堂内だったんだ。
 けど、折角の国家の式典なら、どこか1つ位は市民にも参加できる事が
 あった方がいいって言う事で、当日司令部の一部を開放してるなら、
 その場所でって事になったんだ」

「ふ~ん。 確かに市民の皆にも、軍への理解を深めてもらう為には
 良い手だと思う。 
 ・・・でも、それって結構反対とかもあったんじゃないのか?」

小首を傾げる仕草が、ここまで似合う20歳に近い青年もいないだろうなぁと
内心で思いながら、自分の体格を気にしているらしいエドワードを慮って、
デュラーは賢く思いを噤み、返答のみを返す。

「ああ、警備の関係上難しくもなるし、市民の面前になると、どんな奴らが
 混ざってくるかも判らないしな。
 上の方では、かなり揉めたらしいけど、総統がおやりになると言われた一言で
 決定になったそうだ」

誇らしげな表情を浮かべて語る様子から、デュラーが今の総統に好感を持って、
支持しているのだろう事が見て取れる。
東方の司令官は代々勇敢で、臆病風に吹かれて、
後方に退いているような奴はいないと言うのが、東方の軍人の誇りでもあるのだ。
しかも、現大総統は東方司令官からの出世だ。
名司令官として、長く在任していた彼を慕うものは多い。
エドワードにしてみても、一筋縄ではいかない喰えない爺さんだと思っているが、
それは多分に親しみから来ている相手だからだ。
下にも民衆にも親しみを持たれていた彼の人柄は、ここセントラルに来ても
変わりないようで、何だか嬉しくなってくる。

「そっか・・・、じゃあ、総統の決意を無駄にしない為にも、
 頑張らないといけないな」

いつテロに狙われてもおかしくない地位だ。
それを推しても、市民との友好関係を築こうとしているグラマンの意思を
感じ、エドワードも思わず力が入る。

「勿論だ。 俺らが揃って四苦八苦頑張ってきたんだ。
 成功してもらわなくちゃ立場が無いさ」

エドワードの心意気に力強く頷き返し、明るく告げてくるデュラーに
エドワードもまた、笑いながら頷き返す。

二人が決意も新たに確認しあい、微笑を交し合っている中、
ふいに扉が開いて、司令官のロイが入って来た。

「あっ、お、おはようございます!」

昨日の出勤も早かった司令官だが、今日も更に早いのに慌てながら、
デュラーとエドワードは立ち上がりながら、アタフタと挨拶をする。

「ああ、早くからご苦労。 所要で早めに来ただけだ。
 私の事は気にせず、続けたまえ」

ロイは、むっつりとそれだけを告げると、自分の机に向かい、
積みあがられている書面に目を通して行く。

昨日より更に機嫌の悪くなっているロイの様子には、
さすがのデュラーも察したらしく、エドワードの方を伺い見てくる。
が、もの問いたげに視線を向けられても、エドワードにしてみても
心当たりがあるわけではない。 
小さく肩を竦めて見せて、自分の持分の仕事に気持ちを切り替えた。
サインを書く合間に、ロイの様子を盗み見るように窺うが、
相手は、難しそうに眉間に皺を寄せたまま、次々と報告書に目を通していて、
チラリともエドワードに視線を向けるような事がない。

『珍しいよな・・・、どうしたんだろ?』

確実に書類を減らしながらも、エドワードは気がかりなロイの不機嫌の原因を思案する。
ロイは余り機嫌がコロコロと変わるほうではないし、
ポーカーフェイスが得意な為に、自分の機嫌を悟らせるような愚かな事もない。
勤務中にも、嫌そうな様子を見せたり、ダルそうな仕事振りを見せる事はあるが、
それは部下や周囲を気にさせるような、不機嫌だとかとは違う。
八つ当たりのような子供じみた事や、馬鹿な上官ぶりは見せはしないが、
今のロイは、自分は機嫌が悪いと顔に書いてるようなものなのは、
長く付き合っているが、初めて見た気がする。

『何か、俺らが知らない事で、困ることでも抱えたのかな』

気ぜわしげに考え込んでいると、最後の書類にサインし終わったのにも気づかず、
デュラーの呼び声で、意識を戻す事になった。

「エドワード。 おい、エドワード?」

「えっ! あっ・・はい、何でしょう?」

勤務中にぼんやりとしていた事等なかったエドワードの反応の遅さに、
デュラーが、心配そうに手元の書面を覗いてくる。

「どうした? 何か、困るような報告が上がってきてるのか?」

「えっいえ、大丈夫です。 ちょっと、今日の段取りを考えてて」

慌てて適当な言い訳を返すと、サイン終わった書類を整えていく。

「そうか? それならいいんだが、無理するなよ?
 困った事が持ち上がってきたら、俺にも相談しろよな」

デュラーの思いやりのある言葉に、エドワードも知らずに笑みが浮かんでくる。

『そうだよな。 今は、任務の事を優先しないと。
 ロイの事は、戻ってから訊ねてみよう』

そう思い直して、出来上がった書類を配りに行こうと立ち上がる。

「じゃあ、私はこの書類を各部署に渡してきます」

「ああ、そうだな。 じゃあ、ついでに建物の確認もしてこようか?」

エドワードの手伝いのおかげで、溜まる筈の仕事もスムーズになった。
今日も朝に一番時間の取られる報告書の確認が終わり、時間に余裕が生まれたおかげで、
昼からに食い込んでいた、式典会場の点検に出れそうだ。
デュラーは、嬉しげに身軽に立ち上がると、上官に席を外す旨を伝える。

「では、今から会場内の点検に行って参ります。
 暫く私どもは不在させて頂きますが、宜しいでしょうか?」

席を外すときの決まりごとを告げて、ロイからの了解を待つ。
朝から黙々と書類のチェックを進めていたロイの動きが止まる。
直ぐにでも了解の返事が貰えるだろうと思っていたデュラーが、
中々、書面から顔も上げず、返答も返さない上司を不審そうに窺う。

「あのぉ?」

その遠慮がちなデュラーの問いかけに、ロイが慌てて顔を上げて許可を出す。

「あっああ、頼む」

言葉短く返された返事に、デュラーが頷くと、
ロイは再び書面に視線を落とし、仕事に戻っていく。

一連の様子を見ていて更に、ロイの様子がおかしいことは気になるが、
デュラーに声をかけられ、意気揚々と出ていく彼の後に付いて出ていく。
扉を閉める瞬間に、ロイの方に視線を流すと、かち合った視線に思わず目を瞠る。
出ていく自分を見ていたのか、ロイがエドワードを見ていたのだ。
呼びかけようかどうかの思案は、ロイが視線を逸らした事で中断する。
戸惑いながらも、静かに扉を閉めて、先を行くデュラーの後を追いかけた。



どうにか期限に間に合った建造物に、二人は目を瞠って驚きを示す。
昨日までは、粗末な木の骨組みしか見れなかったが、今日は勇壮な建造物が完成している。

「へっー、東方の国の建物って、凄いよな。 一晩で、こんな風に組み立てられるなんて」

感心しきったデュラーが、驚きの声を上げながら見上げ、感動の言葉を呟く。

「本当だ・・・。あれが、こんな風に立派になるんだもんな。

 けど、組み立てたのはこっちの住人だろ? 良く組み立て方を知ってたよな?」

点検に来ている二人の驚きが嬉しかったのか、組み立て後の飾りをつけている職人が
自慢そうに二人に説明をしてくれた。

「まぁ私らもプロですから。 設計図さえ頂ければ、大抵のものは造れますよ。
 と言っても、実はこれは、そんなに組み立ての難しい物でもないんですわ。
 一過性の建物らしくて、取り壊しも簡素化出来るようになってるようですな」

額の汗を拭き拭き、現場長らしい年配の男性が、エドワード達に設計図を見せてくれる。

その男が言ったとうり、骨組み自体は単純な構造だった。
デュラーにはイマイチ理解出来ないようだが、物質の構築を得意をしているエドワードにとっては、
初めての建築であっても、構造の大まかなラインは見て取れる。

「へっー、軸を柱に組んで建てていくんだ。
 これがこっちの柱で・・・ここと組み合わせて側面を支えるんだな。
 じゃあ、こっちは・・・」

興味を惹かれ、もう少し詳しく見ようと乗り出すが、
先を急かすデュラーに呼ばれて、目を離すと残念そうに現場長に
設計図を返す。

「ありがとうございました。
 良ければ、終わった後にでも、詳しく拝見させて貰えませんか?」

熱心なエドワードの様子に、相好を崩し。

「気に入ったか? まぁ、見たければ軍にも同じ設計図を提出してるから
 いつでも見れるだろうけど」

そう満更でもなさそうに返してくる。

「そうですか、軍にもあるんですね。
 ありがとうございます。 また、拝見させてもらいます」

その後、強度や搭載重量などを確認し終わると、次の場所へと急ぎ足で回っていく。


エドワードとデュラーが、走り回っている間、ロイは八つ当たり気味に
報告書を確認しては、サインを書き込んでいく。
機嫌がよろしくない時ほど、仕事が捗ると言うのも癪に障る。
当たれる所がないと言うわけだ。
が、あの二人が本当に頑張ってくれていることは、
スムーズに行く職務からも痛感している。
デュラーも、慣れない副官職ながら、元来の本人の適正にあっていたのだろう、
そつなくこなしてくれているし、エドワードは・・・さすが付き合いが長いとしか
言いようがない出来栄えだ。
ロイの思考や気質を知っているからこそ、色々な先を予測した段取りを組んでくれており、
ロイが仕事を把握し、指揮しやすいように手筈を整えてくれてある。

『別に彼らの仕事振りに不満があるわけでは無いんだが・・・』

重いため息を吐き出すと、僅かな空き時間が出来ると
ついつい考えてしまう二人の空の席を見る。

別にロイとて、悋気持ちの疑い深い男ではないと思っている。
あの二人が純粋に職務の為に、互いの力を合わせて頑張ってくれている事は
微塵も疑ってもいない・・・いないのに・・・。

「全く・・・」

背もたれに凭れるだらしない体勢で、大きな嘆息を冷たいグレーの配色の天井に吐き出す。

『自分で考えた配置に、嫉妬してどうするんだ』

また一つ、大きなため息をつく。
デュラーを副官にし、その補佐にエドワードを付けたのは自分なのだ。
本来の総統の指示のまま、直接自分の下に付けるのも良いかとも思ったが、
・・・はっきり言って、二人でずっと傍に居てもらって、公私混同しないとは
自身がなかったのだ。 それでなくとも、会える回数が減っている今は、
会えば嬉しくて微笑みかけたくなるし、話しかけたくもなる。
そして、手を伸ばせば届く範囲に居てくれるなら、触れたくなり、抱きしめたくもなる。
東方の司令部でなら、最強のストッパーが居てくれるから、それ以上は踏み止まれるが、
今回は、そう言うわけにもいかないのなら、自分の自省が利く様にしておかなくては
危なくて仕方ない。

「姿が見えなくなるのが不安で、触れられないと怖くて仕方なくて、
 今度は、同僚達と仕事をしているのが気に食わない・・・か。
 耐えて超えなくてはいけないハードルは、まだまだ山ほどでそうだな・・・」

情け無い姿は、出来るだけ見せたくない。
それは惚れてる人間の最小で最大の矜持なのは、誰も変わりないようだった。
エドワードの杞憂も、実の所は、ロイの単なる嫉妬に過ぎないのだが、
恋愛経験の少なすぎるエドワードでは、なかなかそんな細やかな機微には
気づきそうもないだろう。


[あとがき]

X'mas企画が新年企画に・・・。
あははのはぁ~と笑って誤魔化すしかない!
取り合えず、新年明けましておめでとうございます!
ドジでのろまな亀ですが、今年も全力全霊で頑張り駆け抜けますので、
どうか旧年同様、宜しくお願いいたします。\(>o<)/






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